【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
 いつも見ているもん、すぐに分かったよ。


「田中くん?」

「っ⁉」


 声を掛けながら近付くと、田中くんは驚いて振り向く。

 その顔色は目に見えて悪い。


「浜田、さん?」

「田中くん、やっぱり具合悪いんでしょう? 朝から様子おかしかったもん。保健室行った方がいいよ」


 まともに会話したことも数える程度だったけれど、顔色の悪い田中くんを見たら緊張なんてしていられなかった。


「朝から?」

「うん。朝は何となくそんな気がするってだけだったけど、今は本当に顔色悪いよ? 保健室行こう? 辛いなら肩貸すよ?」


 心配で私も隣に腰を下ろすと、田中くんは困り笑顔を浮かべる。


「……何で浜田さんには色々バレちゃうのかな?」

「っ! それは……」


 いつも見ているから、なんて言えないよ。

 言葉に詰まる私だったけれど、田中くんは答えを求めていたわけじゃなかったみたい。


「それじゃあ、悪いけど肩貸して?」

「う、うん」


 私の手助けを受け入れてくれた田中くんは、左手を私の右肩に乗せて何とか立ち上がる。

 右手は左わき腹を抑えているから、やっぱりそこが痛かったんだなと思った。


「階段、気を付けてね?」

「うん、ありがと」


 そんな言葉を交わしながら、いつも以上に近い田中くんの存在にドキドキする。

 肩にかかる重さを意識せずにはいられない。

 私はどうしても赤くなる顔を見られない様に、出来るだけ前を向いて保健室に向かった。
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