【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
***

「ったた……」

「大丈夫?」


 保健室には先生がいなかったから、田中くんにはとりあえず椅子に座って貰った。

 ベッドで横になった方がいいのかなって思ったけれど、大丈夫って言われちゃったし。


「ああ……大丈夫、って言っても痛いけど」


 はは、と辛そうに笑いながら彼は制服のシャツをたくし上げた。

 突然素肌を見せられてドキッとしたけれど、恥ずかしいとか思うより先にその痛々しさに顔を歪めてしまう。

 田中くんのわき腹は、紫色の痣になっていた。

 これ、内出血してるよね?


「うわ……こんななってたんだ。痛いわけだよ」

「気付いてなかったの?」

「ああ。今朝ちょっと家の手伝いしてた時にミスって、蹴ら――ぶつけちゃったんだよ」


 けら? 今、言いかえた?


 ちょっと引っかかったけれど、私が疑問を口にする前に田中くんは言葉を続ける。


「痛いなぁとは思ってたけど、まさかここまでひどくなってるとは思わなかった」


 いてて、と裾を戻す田中くん。

 その痛々しい様子に、せめて痛みが和らげばいいのにと思った。


「あ、そうだ」


 私は思い立って保健室の中を見回す。

 でも必要としているものが見当たらなかったから、窓を開けて外を見る。
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