人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

54.悪役姫は、眠りに落ちる。

 これは(ロイ)彼女(ヒナ)の物語。
 悪役姫(当て馬)の入り込む隙間なんて、最初からどこにもなかったのだ。
 1回目の人生で見た時は、胸の奥を抉られたような痛みと共にどこかその光景に憧れながらロイとの関係が崩壊する音を聞いた気がしてただただ苦しいものだった。
 2回目の人生で第3者目線で見た時は、何度も何度も読み返すほど素敵な光景だと感じた。
 3回目の人生でロイがヒナを抱き抱える光景を見た時は、やっぱりこうなるんだろうなと思うと同時に2人が並ぶととてもお似合いだと思ってしまった。

『きっと、色々変わる事があっても、これだけは変わらない確定事項なのですわ』

 結婚当初にロイに告げた言葉が頭をよぎった。
 そう、これは小説に明確に書かれた既定路線。
 時渡りの乙女であるヒナが異世界から転移してきて、ロイと恋に落ちるのだ。

(もう、恋に落ちちゃったのかしら?)

 とアリアはそんな事を考えて、ロイと目を合わせる事ができず仕事に逃げた。
 もうすでに限界値ギリギリまで使っていた黄昏時の至宝(サンセットジュエル)を倒れると分かっていても解く事ができなかった。
 身体能力を飛躍的に向上させるこの魔法を解いてしまったら、きっと自分の心情なんて一瞬でロイにバレてしまっただろうから。

『アリア、俺が君を疎ましく思う日は来ないから』

 ヒロインに会っても、そう言える? と信じきれない自分がロイの事を問い詰めそうになる。

(……どう転んでも受け入れようって決めたのに、弱いな。私)

 暗闇で膝を抱えてアリアはつぶやく。
 何度も何度もシミュレーションしたはずなのに、いざその光景を見ただけで狼狽えるなんて。

(このまま、目が覚めずに全部終わってしまえばいいのに)

 そんな事を考えたアリアの意識は浮上することなく再び深い闇の中に落ちていった。
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