人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
 まるで罪を告白するかのように淡々とだが苦しそうな声音でアレクはロイに語る。

「王家で保管していた荊姫はもう何年も持ち主が現れず、暴発するギリギリの状態だった。絶大な力を振るう魔剣だけど、暴発して適当な相手に取り憑き暴れて至る所切り刻むような事態になってはたまらない。人的被害を出さないためにとりあえず次の持ち主が見つかるまでの繋ぎ。それが僕の役目のはずだった」

「なんで、アレクが?」

黄昏時の至宝(サンセットジュエル)。これを持っていたのが、その当時僕だけだったから」

 王家の生まれである以上、国のために死ねと言われれば素直に命を差し出すべきだったのだろう。
 だが、アレクは死にたくなかった。
 魔剣に選ばれた持ち主ですら、長く生きられない。魔剣の持ち主でない人間は使う事すらできず、寄生されるだけ寄生されて寝たきりのまま魔剣に喰い殺されることになる。
 だからその日が来るまでになんとか打開策を見つけたくて、ありとあらゆる文献を漁り、僅かな可能性を探して様々な角度で研究を行い運命に抗った。

「アリアが生まれた時、多分1番喜んだのは僕だった。僕がこの目を発現させたのは3歳。だけどアリアは生まれた時からこの目を持っていた。それも、膨大な魔力と共に」

 荊姫のための生贄としての耐性度でいえば、アレクよりもはるかにアリアの方が適任だった。

「これで死なずに済むと思った。最低な兄だろう?」

 安堵した後に押しつぶされそうなほどの罪悪感を抱えた。
 まともに幼い妹の顔が見れないほどに。

「アリアが荊姫に選ばれた時は、アリアが寝たきりで過ごすことにならずに済んだんだとほっとした。けど、役目を押し付けようとした罪悪感は消えないし、アリアの寿命が短いだろうことは変わらない」

 だが、そんなアレクにアリアは笑う。

「"これは私の運命なのよ。だから、アレクお兄様にはあげないわ"って、さ。カッコいいだろ? うちの妹は」

 アリアはただ目の前に落ちて来た運命を受け入れて、それを全うしようと生きるのだ。
 運命なのだから仕方ないと悲観するのではなく、全ての事象に意味があると信じて。

「だからいつか、アリアの役に立つかもしれないと思って"魔剣"を主軸に色々な分野で研究をしている。アリアは単純に僕が嫌厭されがちなマイナー分野が好きなんだと思ってるみたいだけど」

 可愛い妹をみすみす死なせたりはしないよと言ったアレクの瞳は、アリアと同じ特殊魔法を発動した時の色に染まっていた。
< 133 / 183 >

この作品をシェア

pagetop