人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
 2人きりになった部屋で、

「さっきの"共鳴率"とか"同化"って言うのは何なんだ?」

 随分話せるようになったアレクにロイは尋ねる。

「元々、アリアは荊姫との相性がかなり良いんだ。魔剣は使い手によってその姿を変えるけれど、荊姫の本来の姿は棘のある蔦を纏った銀色の大剣と言われている」

「それは、普段アリアが使っている奴だな」

 ロイはアリアが軽やかに振り回す大剣を思い浮かべる。

「魔剣には意志や感情が宿ると言われている。僕は起動させてもさっぱり分からないんだけど、アリアは荊姫が楽しそうだとか悲しそうだとか言うんだ」

「つまりアリアは荊姫に共感している、という事か?」

「そう、シンクロ率といってもいい。高ければ高いほど荊姫本来の能力を引き出せる。でも同様に荊姫もアリアから魔力を引き出せるんだ」

 アリアは荊姫をまるで自分の身体の一部のようだと言っていた。
 それほどまでにすでにアリアは荊姫に侵食されているのだろう。

「荊姫がアリアから引き出す魔力量が多過ぎる。計測した感じ、本来荊姫を維持使用するために使われる量の3倍は引き出されている」

 いくらアリアの魔力量が多いとは言え、魔力回路が傷つき体内での魔力の生産が滞っている状態ではそれだけの魔力を供給するのは難しい。
 魔力回路が傷ついてなかったとしても通常の人間ならすぐに魔力が枯渇して命に関わるというのに、本当にこの妹は規格外だとアレクは苦笑する。

「僕は定期的にアリアと荊姫の測定をしているんだけど、前回僕が帝国に来た2ヶ月前はここまでの供給量じゃなかった。もっと言えばキルリアで最後にアリアが荊姫を使った時よりはるかに魔力供給量が多い。さて、これほどアリアの魔力を欲して荊姫は一体何をしようとしているのか?」

 研究者としては興味深くはあると淡々と語るアレクの話を聞きながら、ロイは目を覚さないアリアを思い背筋が寒くなる。

「このままだったら、アリアは目を覚ましても長くはないのか?」

「そうかもね」

「そうって、なんでそんなに冷静なんだよ」

「取り乱して事態が変わるならそうするよ。でも、アリアは既に自身が短命だということを受け入れているし、僕たちもそれは理解している」

「だが、本来よりもはるかに早く魔力を……アリアの寿命を喰いつくそうとしているんだろ!?」

 アリアが死ぬかもしれない。それが急に現実味を帯びロイは拳を握る。

「そう、それ。僕には、荊姫のお気に入りであるアリアを、荊姫が無意味に刈り取るとは到底思えないんだ」

 アレクはホットアイマスクを外して、ロイの方を見る。

「荊姫はアリアを自身の最後の主人に選んだのかもしれない」

 実験もできなければ証明もできない、"かもしれない"という、妄想に近い仮定でしかないけど、とアレクは言うととりあえず一時的にアリアと荊姫を切り離すかと起き上がった。
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