人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

71.悪役姫は、溺愛される。

 誤解を解きたいから、と手を引かれてアリアが連れて来られたのはロイの自室で、久しぶりに足を踏み入れたそこは最後に訪れた時にはなかった物がいくつか増えていた。
 例えばそれは、ソファーの前のローテーブルや部屋に今までなかったキャビネットや小さな保冷庫の存在。
 ロイに促されて座ったソファーの前のローテーブルの上には、ガラスの小瓶が置かれていて中には色とりどりの飴がたくさん入っていた。
 ロイはいつもご褒美に飴をくれたけれど、ロイ自身が飴を食べているところをアリアは見た事がない。
 ガラスの小瓶の蓋の持ち手の部分は小さな王冠の形をしていて、シンプル過ぎる彼の部屋に置くにはいささか可愛すぎるデザインだ。
 じっと飴の入っていた小瓶を見ていたアリアの前にコトッと小さな音を立てて、ロイがグラスを置く。

「キレイ」

 思わずそうつぶやくほど繊細で綺麗な細工のほどこされたピンク色のグラデーショングラスで、最後にこの部屋を訪れた時にはなかったキャビネットからロイが取り出していた。

「中身はレモン水だけど。ちゃんと話したいから今日はお酒はなしで」

 そう言ったロイは自分の前に色違いのグラスを置く。そのグラスの色は琥珀色をしていた。

「殿下が自ら注いでくださるなんて」

 ありがとうございますと言ったアリアにロイはやや不満気な顔をする。

「? 殿下、どうしま」

 お礼を言っただけなのにと首を傾げたアリアの言葉は不自然に途切れる。
 ロイに引き寄せられ後頭部に手を回されたアリアはあっと思う間もなくそのままロイに唇を塞がれていた。

「……ん……はぁ、でん……」

 いきなりの事で驚くアリアは、ロイを呼ぼうとするが、ロイは言葉を紡がせてくれない。

「ん……」

 先程の重なるだけの優しいキスとは違い、何度も角度を変えて深くなるロイからの口付けに翻弄されて、アリアは息もできずにされるがままで。
 アリアが涙目になったあたりでようやくロイが唇を離した。

「……ロイ……さま?」

 くたっと力が抜けたアリアをそのまま膝に乗せて自分の方に寄りかからせると、

「やっと名前で呼んだ」

 ロイはアリアの髪を撫でそこにキスを落としながら満足そうにそう言った。

「な……まえ?」

「俺はアリアに名前で呼ばれたい。殿下って呼ぶたびにどこであってもキスするから」

 まだ息の整わないアリアの手を取り、ロイは笑いながらその指先に口付ける。

「……口で言ってください。ロイ様にとってキスは罰なんですか?」

 うぅっと顔を赤くしながら、そう抗議するアリアの顎に長い指を添えて上を向かせると、軽く啄むようにキスをする。

「じゃあ、ご褒美」

「……どっちにしてもするんじゃない」

 アリアの淡いピンク色の瞳を見ながら、ロイはコツンと額を合わせる。

「アリアは俺とキスしてみて、嫌だった?」

「嫌なわけじゃ」

「じゃあ問題ないな」

 ロイはアリアの赤く染まった耳を指先でそっと擦るように撫でる。
 その感触に小さく甘い声をあげ、肩をぴくっと震わせ反応したアリアに、

「本当に、可愛いんだけど」

 あんまり煽られると自重できる自信ないなとアリアの耳元で囁き、ロイはそのまま耳に軽くキスをする。
 耳を押さえてびっくりしているアリアに優しく笑うと、ロイは再びアリアと唇を重ねた。
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