人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「姫様見てて思うんだよね。何でこの国って女の子ってだけで主体的な仕事持てないんだろうなって。今まで、考えたこともなかったけどさ」

 女は仕事持ってたとしても結婚して辞めるのが当たり前。だから、出世なんてさせる必要もないし、正規職なんてそれこそ数えるほどしかない。
 それがこの帝国での"当たり前"だから。
 そこに疑問を挟む余地などなかった。

「なんかこーさ、俺ら男の方が無条件に優れてるって思ってたんだよなぁ。姫様に打ち負かされて、うちの野郎どものプライドバッキバキよ? しかもあんなに楽しそうにきっつい仕事、平気でこなされちゃね。考えちゃうよね。今まで信じていた常識ははたして正しいことなのか、って」

 そう思う人間は他にもいるのだろう。だからこそ、最近はアリアの事をこっそり覗きに来るご令嬢が増えた。

「そうであったら、という願望は多分昔からあったんだ。引きずり出すきっかけがなかっただけで。さて、そんな願望と支持者を獲得できたなら、皇太子妃(アリア)の評価はどうなるだろうな?」

 楽しそうに琥珀色の瞳が先を見据えて問いかける。

「……殿下がそうなるようにシナリオを噂として流してるじゃないですか」

 そうやっていらない敵まで増やすとルークはため息混じりにそういった。

「大衆を扇動するのも立派な戦略の一つだ」

 キッパリとそう言い切るロイに、クラウドは揶揄うような視線を送る。

「惚れたんですか?」

「さぁ、どうだろうな」

 実のところ、ロイ自身にも自分のアリアに向ける気持ちが何なのか分かってはいなかった。
 ただ、旅行先でアリアと過ごしたあの晩、確かに思ったことはある。
 あんな風に誰かを想って泣けるアリアの素直さが羨ましいと。そして、その熱量を自分に向けて欲しいと淡いピンク色の瞳を見ながらそう思った。
 大事なものを持ち、守ってやれる余裕など今の自分には有りはしないというのに、勝手なものだとロイは呆れる。
 それでも、と思う。
 感情に振り回されるわけにはいかない自分には、まだこの気持ちに名前をつけるわけにはいかないが。
 それでも、アリアには笑っていて欲しい。
 そう願ってしまう自分が確かにいて、いつの間にかアリアの事を目で追っていた。

「ああいうタイプは、抑えつけるより好きにさせる方が伸びる。その方が国益にもなるしな」

 それまでアリアに対する批判を抑え、操作するのが自分の仕事だとロイは言い切る。

「とにかく、もう少し見守ってくれ」

「分かりました。ですが、私は少し心配です。ロイ様は、内側に入れるまでは警戒しますが、その後は身内に甘いところがあるので。苦言は言わせてもらいますからね」

 ロイが間違っているという確証がない以上、結局のところロイの決定には逆らえない。ルークはため息を吐きながらそう言って了承を告げた。

「ああ、それともう一つ言っておかねばならない事が」

 そろそろだとは思っていたがルークから聞かされた言葉に、辟易しながらロイは暗いモヤを飲まされた気持ちになりながら仕方なく頷いた。
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