人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

32.悪役姫は、新しい関係を願う。

 もう2度と来るつもりのなかった夫婦の部屋にアリアは足を踏み入れる。嫁いだその日以来、今世では2回目の夜。
 先に部屋に入ったアリアは居心地悪く、床に膝を抱えて座った。

「悪い、待たせたな」

 そう言って入ってきたロイはロイの部屋の方からではなく、アリアと同じ廊下側からの入室で、急いできたらしく髪も濡れたままだった。

「アリア」

 うずくまっているアリアのそばに膝をつき、彼女の真っ青になっている顔を覗き込む。

「ごめんな、来るの遅くなった」

 そう言うとアリアの手を取り、ベッドではなくロイの寝室に続くドアの方に連れていく。

「殿下?」

「開けるからちょっと待っててくれ」

 そう言って取り出したのは部屋の鍵ではなく2本の針金で、それを器用に駆使して解錠する。

「……なんでお部屋のピッキングなんてしてるんですか?」

 これは一体どういう状況だ? と事態が飲み込めないアリアにロイは得意げに笑ってコッチにおいでと部屋に招いた。

「今回は確実に夜伽を遂行させようと鍵取り上げられた上に魔法感知の陣まで引かれてな。アナログな方法しかなくて、諸々準備に手間取った」

 まぁ、中までは見れないし、魔法を使わない限りはどっちに居ても分からないからとロイはアリアに上着を着せてソファーに座らせる。

「えっと、いいのですか?」

「とりあえず呼んだという体裁が取れれば。ごめんな、嫌な思いをさせて」

 申し訳なさそうにそう言うロイを見て、本当に彼は呼んだだけで、閨事を行う気がないのだと悟りアリアはほっとして力が抜けてしまった。
 自分で思っていたよりもずっと緊張していたらしい。

「どう……して?」

 喉がカラカラで声が掠れた。そんなアリアに水を差し出し、ロイはアリアに目線を合わせて膝をつく。

「アリアに無理強いをしたくない。っていうか、俺が嫌なんだ」

 琥珀色の瞳は困ったような色を浮かべて、言葉を紡ぐ。

「子を儲けるのは王族の義務だし、俺の立場を心配してくれる部下の気持ちも陛下達の圧も理解はできるんだけどな。なんだかこうもずっと圧をかけられると、種馬にでもなった気分だ」

 "種馬"その言葉に反応し、アリアは驚いたように目を丸くする。

(この人も、私と同じ事を考えてたんだ)

 まるで、子どもを産むための道具みたいだ。
 アリアは1回目の人生で、そんな事を何度も何度も考えた。授からない自分を責められる度に、まるで自分が欠陥品のように感じ、価値がないと言われているようで、ずっとずっと苦しかった。
 自分だけが苦しんだのだと思っていた。でも、ロイも同じ気持ちだったのかと3回目の人生で初めて知って、なんだかそれにとても救われた気がした。
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