人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「…………殿下のお考えが、私には本当にさっぱり1ミリも理解できません」

 何がどうしてこうなってしまったのか全然わからないアリアは、そう言って降参する。

「第一、私が嘘ついてたらどうするんですか? それに、私が王弟殿下側の手先でわざと情報流してる可能性だってあるでしょ? その辺疑わないんですか?」

 本当にあなたらしくないです、と淡いピンク色の瞳が困惑を示す。
 それを見て満足気に笑ったロイは、

「アリア。俺はアリアに宣戦布告しようと思う」

 と前置きをして、

「伊達に何年も命張りながらここ(第一継承者)に居続けているわけじゃない。皇太子()を舐めるなよ?」

 と真剣な眼差しでそう宣言した。
 強い意思を持つ琥珀色の瞳に射抜かれて、アリアはただ息を呑んでロイを見返す。

「アリア、お前は自分で思っている以上に親しくなった相手に対して壊滅的に嘘が下手だからな? アリアほど表情読みやすい奴は俺の周りにはいない。王弟殿下の手先? アリアがあっちと組むメリット皆無だろうが。そもそも手先が俺の心配したり狩猟大会で暗殺者フルボッコにするか」

「でも、それも全て計算って可能性もっ!!」

「それが全部計算で俺が読み違えていたなら、俺は相当な間抜けだな」

 と鼻で笑ったロイは、

「俺は天才ではない。が、その分ずっと積み重ねてきたものが有るんだよ。俺はそれを信じてる」

 と真っ直ぐにアリアを見てそう言い切る。
 アリアはそんなロイから目を逸らす事が出来ず、淡いピンク色の瞳を大きくする。

「俺はアリアを信じている」

 ロイにはっきりとそう言われて、アリアはまじまじと彼を見る。

「だから、アリアが起こす行動には意味があって、少なからずその理由の中に俺もいるんだろうっていることは理解している」

 だけど、とそんなアリアを琥珀色の瞳に映しながら、ロイはとても大事な事を伝えるように言葉を紡ぐ。

「俺は、未来というものは"今"を積み重ねていった先の結果だと思っている。だから、確定した未来なんて信じていない」

 仮にアリアが何らかの方法で先に起こる出来事を把握できるのだとしても、それが全てだとは思わない。

「俺は、運命というものが目の前に立ち塞がったとしても、それが俺にとって気に入らないものなら、全力で抗い続ける」

 運命だと受け入れて流されるのは簡単な事だろう。それもひとつの選択であり、考えだ。だが、それは自分の主義とは反するとロイは主張する。

「俺は、自分の幸せを、選択の責任を俺以外の誰かに任せたりしない。たとえ、その先に良くない結果が転がっていたとしても、だ。自分で決めた道で、手繰り寄せた結果なら、その瞬間後悔したとしても、必ず更にその先の一手を見つけ出してみせる」

 自分の人生の責任は、自分にしか取れない。けして、主導権を誰かに明け渡す気などない。それが、ロイ・ハートネットの生き方なのだと、アリアにはっきり言い切った。

「アリアが、これから先何をしようとその行動の制限をかけるつもりはない。だが、その選択の理由(言い訳)に"俺"を使うな」

 そう言われて、アリアの心音は大きく音を立てる。

「きっと、アリアはアリアが望んだ未来のために行動をするんだろう。だとしても、その過程でアリアが望まない選択をするのに"俺の幸せのため"だなんて、言うなよ。そんなもの、俺は全く望んでいない」

 ああ、ここ連日の彼らしくない行動はそういう事かとようやくアリアは理解する。

「俺の幸せを勝手に決めるな。仮にアリアが本当に未来を知っているんだとしても、だ」

 "独りよがりマジ迷惑"と言ったさっきの言葉がブーメランとしてアリアの手元に返ってきた。
 アリアがロイの幸せのためにと言いながら距離を置こうとする事が、ロイにとってはアリアの独りよがりな行動でしかなかったのだろう。
 ロイの行動はそれを自分に理解させるためだったのか、とアリアの中で全部が繋がる。

「俺の妻はアリアだけだ。これから先も、ずっと」

 そう宣戦布告するその時だけは琥珀色の瞳に懇願が混ざっているようで、アリアは不意に泣きそうになった。
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