君を忘れてしまう前に
「おはよ」
「は!?」
サラの声がして、わたしは素早く振り向いた。
そこには、ヴァイオリンを背負ったサラが立っている。
勘違いかと思ったけど、やっぱりサラだ。
思いもよらない人物の登場に、わたしはその場ですぐに立ち上がった。
勢いがついて、イスがガタンと大きな音を響かせながら倒れる。
起こそうと手を伸ばしたものの、パソコン画面に映ったいかがわしい画像を思い出すなり、慌てて背筋を伸ばした。
挙動不審がすぎるけど、そんなことはどうでもいい。
パソコンデスクに必死で両肘をつきながら、「背中の向こう側を絶対に見るなよ」とサラに精一杯の念を送る。
「なに隠してんの」
「ちょっと……」
口をもごもごとさせていると、サラはいとも簡単にわたしを押し退け、パソコン画面に目を向けた。
「なんこれ、仁花が着るの?」
画面いっぱいに映った、あやしげなポーズでパンツの紐をピンと引っ張る女性。
リカコ先生みたいに色っぽい女性になるには、どんな服装をしたらいいのか考えていた、なんて口が裂けても言えない。
でも黙ったままでいられるような空気でもない。
わたしはロボットのように、ガチガチとぎこちなく首をひねった。
「いや、あのちょっとだけ見てみようかなって。ほんのちょっとだけ。わたしも年上の女の人みたいに大人っぽくなってみたいなぁなんて」
「なんで?」
「なんでって……」
「今までそんなこと言わなかったじゃん。なのに、なんで?」