君を忘れてしまう前に
だいきらい
 

 今日はコンサートの中間発表の日だ。
 ステージに立って、出演者や先生達の前で本番と同じように演奏する。
 どれだけ仕上がっているのか厳しい目で見られるから、朝、家を出る前から緊張していた。

 サラとはあの日以来、2週間近くまともに喋っていない。
 3年生になるとクラシックの学生と同じ授業を受けることはほとんどないし、そもそも校舎が分かれているから、お互いに会おうとしなければまったく会わずにすむ。

 今更、気が付いた。
 わたし達は毎日顔を合わせていたのに、それが当たり前だと思っていた。
 2人でよく使っていた、ベンチのある休憩所にも行っていない。
 また急にケンカのような言い合いになったら、友人関係が壊れるかもしれないと思うとサラに会うのが怖かった。

 中間発表が行われる、指定のコンサートホールに足を運ぶ。
 学内にいくつかあるコンサートホールの中では、一番小さな200席程度のホールだけど、ちゃんとしたステージで演奏するのはわたしの学生生活の中でこれが初めてだ。
 まだなにもしていないのに、緊張のせいで手には大量の汗が滲んでいる。

 ホールの重厚な扉を開けると、10人くらいの先生達が客席の最前列で横並びに座っていた。
 その周りには出演者達がぽつぽつと間隔を空けて散らばり、ステージ上を眺めている。
 ステージにはすでに何人か立っていて、すぐにでも演奏が始まりそうな雰囲気だ。
 わたしは急いで扉を閉め、入り口近くの席に着いた。

 演奏が始まる。
 1000人近くいる生徒達の中から選ばれた30人の出演者達は、段違いに演奏が上手い。
 ほとんどがクラシックの生徒で、J−POPの生徒は奇跡的に試験に受かったわたしだけだ。

 気がつけば、自分が出演者であることも忘れてステージに見入っていた。
 わたしはなんて凄い場に居合わせることが出来たんだろう――と思う反面、わたしがここにいるのは場違いじゃないだろうかという気持ちにもなる。
 しばらく忘れていた緊張感が再び高まり、じっとしていられなくなったわたしは、誰もいない前列のイスの背に抱き着き顔を埋めた。
 バクバクと大きく胸が脈打つ度に、身体が揺れる。
< 35 / 89 >

この作品をシェア

pagetop