君を忘れてしまう前に

 はっきりとした拒絶に息が止まる。
 手首の拘束が緩まったのを見計らって、わたしは逃げるように練習室を飛び出した。
 慌ただしくドアを閉め、サロンまで続く廊下をまっしぐらに駆ける。

 落ち着かないと。
 なんでもいいから、少しだけ落ち着かないと。
 サラはわたしのことを友達とは思っていなくて、そばにいる人には誰にでも頼ると思っていて、実はあの日のことを覚えていて。

 情報量がたくさんありすぎて頭がついていかない。
 とりあえずサラはずっと怒っていた。
 最後には顔さえ見たくない、と。
 わたしはなにをしたんだろう。
 そこまで怒らせるなんて、わたしは一体なにを。

 ガランとした、人気のないサロンのドアの前で立ち止まる。
 ついこの間、サラの言葉に傷ついて1人で泣いた場所だ。
 今日もまた同じ。
 無理やり閉じていた唇から、ヒクヒクと嗚咽が漏れる。
 胸が痛い。
 もうボロボロだ。
 どれだけ泣いても、この痛みは癒えそうにない。
 どうして、ここまで振り回されないといけないんだろう。
 どうして、わたしばかりこんな目に合わないといけないんだろう。
 恋愛も、音楽も、なにもかも上手くいかない。
 なにもかも。
 なにもかも。
 なにもかも全部、大嫌いだ。
 歌も、ギターも。
 冷たい空気の漂うステージも。

――サラも、わたし自身も、全部大嫌いだ。
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