君を忘れてしまう前に
「おはよ、仁花。一昨日の飲み会は楽しかったね。あの後、ちゃんと帰れた?」
朝、大学の門をくぐると親友の円葵に後ろから声をかけられた。
みつきには、息抜きのために居酒屋に連れて行ってもらったお礼と、その後の報告をしないといけない。
そう思うにも関わらず、みつきの「帰れた?」の言い方があまりにも爽やかで返事に躊躇してしまう。
「お、おはよ。帰れたよ」
次の日にね、と心の中で呟く。
みつきはにっこりと笑った。
「よかった。サラが送るって言ってたけど、あいつも相当酔っ払ってたからちゃんと帰れたかなと思って。あの時、凄い勢いで飲んでたけど今日は体調大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、ありがとう」
これだけ気にかけてくれているのに、真実を伝えられなくて後ろめたい。
もしも、あの後1発ヤッちゃったんだよね、なんて話をしたら、さすがのみつきもドン引きするだろうか。
それで友人関係が壊れたりしたら――だめだ、絶対に言えない。
「みつき、一昨日はありがとう。わたしね」
「邪魔、どいて」
どん、と背中を突き飛ばされ、バランスを崩し前のめりになる。
アコースティックギターを背負っていたから、その重みも加わったせいだ。
みつきが咄嗟にわたしの腕を掴んで支えてくれたからよかったものの、もしかしたらこのまま倒れていたかもしれない。
わたしが振り返るよりも先に、みつきが口を開いた。
「ちょっと、危ないじゃない。2人で並んで喋ってただけでしょ? なんなのあんた、謝りなさいよ」
女の子はわたしとみつきをギロリと睨むと、ふん、と鼻を鳴らして背を向けた。