君を忘れてしまう前に
  

「は!? そ、そんなわけないでしょ!? い、いつも背負ってんのになに言ってんの、今更!」
「改めて見たらギターでかいなと思って。今日の公開練習頑張ろうぜー」
「お、おーう」

 あっという間に、サラはわたし達の前を通りすぎていった。
 まだ心臓が暴れている。
 なにがなかったことにしよう、だ。
 意識しまくりで、まったく普段通りに喋られない。
 これじゃあまるで、わたし達はなにかありましたよ! と周りに言いふらしているようなものだ。
 そんなわたしとは違い、サラは軽口を叩く余裕さえあるらしい。
 余裕さえあるというよりも、きっとサラの中では言葉通り本当になにもなかったことになっている。

 例えば、だ。
 身体を許したのはサラが初めてだった、と言えばサラはどう思うだろうか。
 初めての相手がサラで嬉しかったことも。
 なかったことにしようと言ったあの瞬間、胸の奥がぎゅっと詰まってどうしようもなかったことも。

「サラはガッチガチのクラシックだけどわたし達とも仲いいよね〜。さっきのヤツもちょっとは見習えよ、ほんと」
「そう、だね」

 サラはクラシックの生徒で、学内で花形のヴァイオリン専攻で、成績優秀で、将来も期待されていて、友達も多くて、その上見た目もかっこいい。
 J―POPの生徒で、成績も見た目も性格も平凡なわたしとは生きる世界がまるで違う。
 サラは生まれた時から、華やかな世界のど真ん中にいる人だ。
 手なんか届くわけがない。
 そんなことは、最初から分かっている。
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