アッシュフィールド公爵夫妻の偽りの日々と存在しない愛~あなたの愛や絆は期待していませんのでご心配なく~
「ちょっと、大丈夫なの?」

 コリンの背に問いかけた。

 エスコートという言葉など、どこか違う世界のものだと思い込んでいる彼は、さっさと歩いて行く。

 わたしといえば慣れぬ礼服に身を包んでいて、しかも少しだけヒールのある黒色の靴を履いているものだから、歩きにくくて仕方がない。

「おばさん。『大丈夫なの?』って、尋ねたいのはぼくらの方だよ。そのアヒルみたいな歩き方、どうにかならない?」

 わたしの背に、ヘンリーの笑いを含んだ問いがぶつかった。

 わかっているわよ。歩き方がおかしいことくらい。だけど、服や靴にまだ慣れていないからどうしようもないのよ。

 心の中で叫んでおく。
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