アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!

飲み過ぎに注意しましょう

「ほら、起きて」

「んー」

「着いたよ。このマンションでいいんだよね」

「はーい」

ボヤケた頭で、タクシーから降りると、良く知っている景色だ。自分の住んでいるマンションのエントランスホールが見える。
すっかり酔が回って、フワフワとした状態で送ってくれた正人にお礼を言う。

「あー、先生ありがとうございましたぁ」

ペコリと頭を下げた途端にぐらりと景色が揺らぐ。

「危ない!」

私は、ぽすんっと正人の胸に抱き留められていた。

「あー、ハグですねー。さすがアメリカ帰り。ふふっ、温かい」

「飲ませ過ぎたな。ごめん」

耳のそばで正人の声が聞こえて顔を上げた。
すると、正人は眉尻を下げ困った顔をしている。代わりに、私はヘラリと笑う。

「先生、謝ってばかりですね。私、強いんで大丈夫でーす。ひとりで、なんでもできるんですよー」

するりと正人から離れた私は、両手を肩の高さで広げ、バランスを取るようにして足を踏み出した。
私はまっすぐ歩いているつもりだけど、それはどうやら勘違いだったらしい。ヨロヨロと右へ左へ足はもつれ、方向が定まらない。

「ベロベロじゃないか、歩けるか?」

「あはは、酔ってませーん」

「ほら……部屋まで送るから、歩いて」

肩を抱かれ、足を踏み出そうとした。
すると、横から低い声が聞こえてくる。

「いえ、この人俺のなんで、後引き受けます。手、離してもらえますか」

不機嫌な声の主は大都だ。ツアー準備で忙しいと言っていたのに今日は帰って来たんだ。

「あー、おかえりー」

酔っ払いの私は、正人の手を離して、大都の手に縋る。

「先生、今日会えて良かったです。ありがとうございましたぁ。紹介しまーす。この人が私が勘違いして彼氏だと思ってしまった人です」

私はお礼も言ったし、ちゃんと紹介もした。それなのに大都も正人も怪訝な顔をする。

「……ずいぶん若いんだな」

「それが?」
大都はムッとした様子だ。

「イヤ、納得しただけだ」
と正人は独り言のようにつぶやいた。そして、私へ顔を向ける。
「由香里、また連絡する」

「はいっ、先生。気をつけておかえりくださいっ」

敬礼のポーズで元気良く返事をして、正人の背中を見送った。
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