飼い始めたイケメンがずっとくっついて離れてくれない。
 紗英は、いつだったか凛が『天使みたいに可愛い』と言っていた笑顔で、俺を抱きしめた。


「はー……ふふ、会いたかったぁ」


 毛布のようなものをかけられたと思ったら、バタンッと後部座席のドアが閉められた。

 薄れゆく意識の中で俺は、紗英の肩に頭をもたれさせたまま、もうどうにもならないことを悟る。

 紗英に頭を撫でられながら、どんどん重くなる瞼に抗うことができずに目を閉じる。

 

 ……凛。

 感謝しても、しきれない。

 寝起きのちょっと不細工な顔も。

 目を細める不機嫌な顔も。

 たまに見せるふにゃふにゃした笑顔も、子供みたいにぐちゃぐちゃになっちゃう泣き顔も。

 全部全部、全部、俺は……。

 ……もっとたくさん、ちゃんと、本当の俺の気持ちを伝えたかった。

 ずっと、ずっと一緒にいたかった。

 たぶんこれからも、凛への気持ちは変わらない。

 これからなにがあっても、この気持ちがなくなることはない。

 だから、

 だからもう俺は、
 
 一生この気持ちに蓋をする。




「もう逃げちゃダメだよ?」




 耳に響いた紗英の声を合図に、俺の意識は深くて暗い、静かな水底に沈んでいった。



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