私を導く魔法薬
 ダリアは子鬼の目の前に立った。

「…子鬼?私は魔女。私の住処(すみか)近くまで来て、泣くんじゃないわよっ」

 彼女がきっぱりと言い切ってしまったためにきつく聞こえたらしく、子鬼は更に泣き出した。

「っわぁぁぁ!!魔女に怒られたぁ、ごめんなさぁい!!」

 子鬼は泣きながら走り去り、彼女は焦る。

「何よっ…」

 ダリアに怒鳴ったつもりはない。追い出すつもりもなかった。
 悪気などこれっぽっちも。

 ただ他付き合いが苦手で、だいぶ久しく来た『客』に戸惑っただけ。
 彼女は肩を落とし、自分の家へと戻っていった。


 常にこの調子。

 翼も角や牙も無く、少し高めの鼻と、魔力が高まったときに赤く燃える瞳のほか、見た目に魔族の証はほとんどなく、“人間”のようにも見える彼女の一族。
 どんなに別の種族と結ばれたとしても、子孫の特徴が自分と変わることもない。

 そのため、時折街に出て生活に必要な買い出しをするも、大人しくしているつもりでも目立ち陰で指を差される。

 気まぐれに話し掛けられても、なんと返せばいいのかが分からずあの調子の強い口調になってしまう。

 『混血魔族の作るものは王族の血が混じっているため高価』という流説さえあり、渋る者が大半だった。
 そのため彼女の作る薬の得意先は金持ちばかり。本当は皆平等に薬が行き渡ればいいと思っているのだが…

 ダリアはモヤモヤとした気持ちを抱いたまま、今日も明るくなった頃にひとり眠りについた。
< 2 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop