私を導く魔法薬

彼から感じる魔力

 泉のそばのテーブルに椅子とソファーを並べ、あらためて子鬼に話を聞くことに。

「…それで、あんたも彼を人間だと思うのね?」

 ダリアの問い掛けに子鬼は真面目な顔でうなづく。

 ふいに、彼が数日前の昼間に吹雪を起こしながらこの魔族の国を彷徨っていたことを思い出す。

「そういえば、知らないってことはあんたもこの前の昼間に彼を見なかったのね」

「…なんのこと?」

 子鬼は首を傾げてキョトンとしている。本当に何も知らないらしい。
 ダリアは話を戻すことにした。

「こっちの話。…さて本題。彼は記憶喪失らしいの。何も覚えていないまま、この森を彷徨っていたのよ」

 子鬼は話は聞いているのかうなづきながらも、まじまじと不思議そうに彼を見つめている。

「…やめなさいよ、失礼だわ。相手をじっと見つめるなんて」

 ダリアの呆れ顔に、子鬼は苦笑いに変わる。

「ごめんなさぁい、ダリアより見た目がニンゲンににているからめずらしくて…。でもおいらその…おっちゃんが、少ぉしだけまりょくがある気がするのは、なんでだろうなあと思ったんだ…」

 その言葉に、彼と最初に出会った時を思い出す。

 ダリアは彼から魔力を感じるのは氷の魔人が彼に着せた鎧の効力が残っているせいかもしれないと思っていた。
 しかしすでに魔人はもうどこかに去ってしまっている。

 鎧もすでに脱ぐことができるようになったのだから。

 あの魔人が、もう用もないはずの彼に拘束するための魔力を未だ残している意味はないはずだった。

「…そうよね、だとすればやっぱりこれは彼自身から感じる魔力なのかもしれないわ…」

 ダリアはそう呟くと、子鬼を見て言った。

「あんた、いいこと言うじゃない」

 子鬼はその言葉に照れ笑いを浮かべる。

 では次は彼の魔力が何であるのか、ということ。

「…あ!おいらもうかえらないと!」

 子鬼はようやく思い出したようにそう声を上げる。
 そして、

「それでえ〜と、道は……」

 自分が森に迷い込んできたのを思い出したらしく、また照れ笑いを浮かべた。

 ダリアは呆れ、一つの魔法薬を森の草木に垂らすと、手のひらほどの小さな草木の精が現れる。

「子鬼を案内してやって」

 妖精はダリアの言葉に頷き、子鬼を先導すべく飛び回り始める。
 子鬼はニカッと無邪気にダリアに向けて笑い、

「ありがとうダリア!!」

そう言うと草木の精について歩き出した。
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