私を導く魔法薬
 子鬼が去ったことを確認すると、ダリアは彼の方に向き直る。

「あんた、今までに自分が魔法を使った記憶はないの?」

 言われた彼は少し考えたようだが思い当たらなかったらしい。
 すぐに首を横に振る。

「…少し危険かもしれないけれど、彼の魔力を目覚めさせてみるのも手かしら…」

 ダリアはそう考え、魔法で取り出したコップに湖の水を汲み入れて精製する。
 しかしすぐに手を止め、彼を真っ直ぐに見つめる。

 自分は、現状で彼の記憶を揺り起こすことができるのだとしたら彼の発するかすかな魔力に働きかけてみるのが一番良いかもしれないと思っている。

 しかしそれは、彼の中にあるらしい微量の魔力を少なからず強力にするということ。

 もし彼が魔族に近い何者かだったとしたら、彼は一生何らかのハンデを負って生きていくことになるかもしれない。
 
「どうした、ダリア?」

 彼は心配そうに、不安げな表情のダリアを見つめる。

 他とは交流を断っていた自分。こんな時どうしたら良いのかが分からない。
 もし判断を間違ってしまったら…

「ダリア」

「…あんたの記憶が失われたのは、おそらく氷の魔人に操られた際にあんたの中の魔力バランスが崩れたせいで記憶に無理が生じたのよ…。だからきっと、あんたの微量な魔力に働き掛けたら思い出すことができるかもしれないわ、でも……」

 彼は説明のあとに口ごもるダリアを見て言った。

「ダリア、お前が施してくれる治療だ。もしそれがお前にとって今まで行なったことのないものでも、俺は受け入れよう。お前が俺を想って必死にやってくれているのは分かっている」

 まるで自分の悩んでいたことを汲むように、彼は穏やかな表情だった。
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