私を導く魔法薬
 読むのを諦めようと首を振った彼女だったが、何気なくもう一度立て札を見ると突然頭の中にスッと文字が頭に入ってきた。

「…魔王城跡…優しき娘を讃える『マリーの泉』…何で私、こんなボロボロの立て札が読めるの?…魔王城跡…?」

 持っていた古びた地図をあらためて見ると自分はいま、遥か昔に人間と魔族の対立があったという、魔王の統べる小国の城があったあたりにいることが分かった。

 争いを嫌う魔王はその後、ダリアのいた魔族国の辺りに仲間たちと移り住み、この国は魔力を持たない人間や獣人たちの時代が続いているという。

「…ここが、人族の国なのね…私の祖先がいたという…」

 自分の中にはこの地にいた魔族の長であった魔王の血が流れている。
 そして、祖先である人間の娘の血も。

 この泉は、魔王のもとに身を置いた娘を案じて名付けられたものなのだろう。

 そう考えると、自分が何だかその血に導かれてここに来た気がした。立て札が読めたのもそのおかげかもしれない、と。

 そして別れたあの彼もきっと、自分と同じ気持ちだったのかもしれないと思った。

「…ここにするわ!それにこの水は薬を作ってみるのにちょうど良さそうだもの!」


 ダリアは泉のそばで持っていた見えない棚に荷物をしまうとその棚を置き、身軽になった状態で森を歩き始めた。
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