私を導く魔法薬
 森の木々が開けた湖のそばにダリアはまず、向かい合わせに自分の愛用の椅子とソファーを取り出した。

 男は鎧姿のまま、彼女の勧めたソファーに掛ける。しかし篭手すらも外れないらしく、男は戸惑ったような表情をしている。

「それ、外せないの?」

 ダリアはそう尋ねてから考えた。

 自分では制御できていない弱い魔力、外れない鎧…
 これは男に掛けられた何かの呪いではないのだろうか?


 次にダリアは見えない魔法棚から一つ小瓶を取り出した。

「これ、一滴ずつ飲んでみて」

 小瓶を一振りし、小さなスプーンに一滴落とすと男に手渡した。

 彼は首を少し傾げこそしたものの迷うことなく、すぐに啜るようにスプーンの液体薬を飲んだ。

 彼は記憶がないとはいえ抵抗もない様子。
 もしかしたら魔族ではないのかもしれない、彼女はそう思った。

「…どう?何か身体に変化はあった?」

 彼が無口な方なのかまだ効果が出ないのか、黙ったままの男にダリアはそう尋ねる。

「…いや」

「…じゃあ、もう一滴……」

 ダリアは、男に一滴渡して飲ませては体の状態を聞くことを繰り返した。

 五回ほどそんなことを繰り返していると、男はようやく自分から初めて口を利いた。

「随分と、慎重なのだな…」

 その上うっすらと笑みを浮かべているように見える。

「な…何よっ!笑ったんじゃないでしょうね!?あんたが雪の精だったりしたら困るでしょ!私の特製の薬なんだから効かないはずはないのよっ!ほら、これだけ飲んでみて、どうなのよ!?」

 彼女は慌ててそう取り繕い、またそう尋ねた。
 男は、ふっ、と今度は分かりやすく笑う。

「…気分の方は落ち着いたようだ」

「っ、そう…良かったじゃない…」

 なぜだか男の顔を見ていられなくなりそう言うと、反射的にふいっと顔を逸らした。
 自分の顔が熱くなったのが自分でも分かる。なぜそうなったのかは分からなかったが。

「治すわよ!何日かかってもね!」

 何故か熱くなる顔を逸したまま彼女は澄ましてそう言った。
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