私を導く魔法薬
 男は真面目な表情のまま彼女を見る。

「…ありがたい。体が何かに突き動かされるようにしてここに辿り着いたんだ。あれが威力を増したら、もう自分の意識など保ってはいられなかっただろう。俺は森に来る前のことを、何も覚えていない。今頼れるのはお前だけだ」

「…。」

 男の真っ直ぐな言葉に、ダリアは何かがストンと降りたように落ち着きを取り戻した。

 彼を救えるのは自分しかいないかもしれない。
 それなら自分に出来ることをやってみよう、そう思った。


 しばらく一滴ずつの服薬を続けたが、効果は彼の周りの吹雪が止み、彼が落ち着いたことだけ。

 ダリアは他の方法を試すことにした。

「そういえば、お湯には浸かれるのかしら?」

 彼女の問いに、男は少々考え込んだようになったが、

「記憶が無いので分からない。試すのか?」

 そう返した。

 ダリアは魔法で、自分のいつも使っている小さな鍋と小さな湯桶を取り寄せた。
 鍋に入れた湖の水を魔法で小さな火を起こして沸かし、湯を湯桶に入れ、湖の水で適温に調整する。

「…魔法、というのはもっと便利なものだと…」

 彼女のすることを黙ってみていた男は、呟くようにそう言った。
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