【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
「わた、し……」

「雷が落ちた瞬間、お嬢様がお倒れになって……。そこに殿下が駆けつけて下さったのです」

「シリウス、殿下……」

「医務室へ運ぶ」

 突然のフラッシュバックから目覚め、ぼんやりしてしまう。
 
 近くにある殿下の端正な顔に戸惑いつつ、働かない頭で状況を整理していると、体がふわっと浮き上がった。

「――わっ」

 驚いて、とっさに目の前の肩にしがみつく。
 
 ぴったりと触れ合った場所から体温が伝わってくる。香水よりもきつくない、爽やかで清潔な香りが鼻をかすめた。
 
「すまない、驚かせたな。ゆっくり歩くが、気持ちが悪くなったら遠慮せず言ってくれ」

「は、い……」

 力強い腕にしっかりと抱きかかえられ、運ばれていく。
 
 僅かな振動と温かなぬくもりを感じながら身を預けていると、だんだん意識が鮮明になってきた。同時に恥ずかしさが込み上げてくる。

「シリウス殿下、あの、ご迷惑をおかけしました……もう大丈夫ですので、降ろしてください……」

 うつむいて小さくなったまま、か細い声でお願いするけれど。

「すまないが、それは聞けない」

「ちょっと立ちくらみがしただけで、だからもう降ります!」

「こら、暴れるんじゃない」

 殿下は腕の力を少し強めるだけで、もがく私の体をやんわり押さえこんだ。
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