【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
 こんな風に大切にされたら、また勘違いしそうになる。

「殿下は、お優しすぎます。私だからいいものの、他のご令嬢にこんなことをしたら、勘違いされてしまいますよ」

「優しいなどと言われたのは、初めてだ。心配するな。こんなことをするのは君だけだ」

「どうして」

 とっさに、疑問が口をついて出た。
 ハッとして言葉を切る。私は一体、彼に何を期待しているんだろう。

 
「どうして、か。そうだな。どうしてだろうな」

 
 私を横抱きにしてゆっくり歩きながら、シリウスは考え込むように遠い目をした。

 
「傷ついた顔をして走り去ったのを見て、どうしても放っておけず、気が付けば後を追っていた。君が笑うと俺も楽しい気分になるし、たまに物憂げな顔で考え込んでいると、心配になる」

 シリウスはそこで一旦言葉を切ると「あぁ……そうか」と何かに気付いたように呟いた。

「俺は君に『むねきゅん』しているのかもしれない」

「へっ?」

 驚いて顔を上げると、こちらを見つめるシリウスと視線が合う。彼は珍しく、ちょっと楽しげな顔をしていた。
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