【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
 散々不遇な扱いを受けているのに、憎悪にとらわれず、他者を慈しむ寛大な心を持っている。

 小説では悪役として描かれるだけで、裏切りの動機や目的が分からず仕舞いだったシリウス殿下。

 私も最初は、彼が復讐心に駆り立てられ、反乱を起こすものだと思っていた。
 
 ……だが違った。

 シリウスは、個人的な恨みで兄を殺めるような残忍な人じゃない。むしろ思慮深く善良。
 
 そんな彼が反旗をひるがえす理由は、復讐ではなく、恐らく変革のため。

 シリウスは、民をかえりみない腐敗した王室に、風穴を開けようとしている。きっと、自らの命を犠牲にする覚悟で――。

 
「私は……怖いです。殿下は真面目で優しいから、不安になります。人々の幸せを勝ち取るため、この国を変えようと、あなたは自分が犠牲になる道を選んでしまうんじゃないかと――」

 心の叫びが、とっさに口を突いて出てしまった。出過ぎたことを言ってしまったと後悔するが、もう遅い……。

 
「君は、困った女性(ひと)だな」
 

 頭上から降り注ぐため息交じりの言葉に、私はうつむいた。
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