【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
「何を、おっしゃっているんですか」と私は平静を装う。が、シリウスは確信を持った態度を崩さなかった。

「これを見て欲しい」と、一通の手紙を私に差し出す。

 
「これは、城下で暴動が起きた日。俺の元に届いた差出人不明の手紙だ」

 
 手紙の内容は――。

【私のこと、もらってくれる約束、守ってね。生きて迎えに来てよ、シリィ】

 たった一行の文章。これはあの日、シリウスの命を繋ぎ止めるため、私が書いた手紙だった。

 差出人がエスターだと暗示するように、ネモフィラの押し花を添え、内容も二人だけが知っているものにした。

 すべては、シリウスをこの世に引き留めるため。『エスターに会うまで死ねない』と思ってもらえるように。
 
 
「この手紙で、俺はエスターが生きていると確信した。そして彼女に会うまで、死ねないとも思った。これがなかったら、俺はあの日、激情に駆られて兄上を斬っていたかもしれない」

 シリウスは手紙を丁寧にコートの内側にしまうと、心の中を見透かすように、まっすぐ私を見つめた。

「これを書いたのは君だ、アデル。いいや、エスター」

 確信のこもった断定の言葉に、うろたえる。
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