【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
「俺と母が離宮にいたというのは、王室が自分たちの失態を隠すための嘘だ」

「嘘? どうしてそんなことを」

「母が俺を授かったとき、正妃はすでに兄上を身ごもっていた。正妃派閥に命を狙われた母は、身重の体で王宮から逃げた」

 シリウスの母は密かに息子を産み、追っ手から逃げながら各地を転々として暮らしていた。

 だが、ついに無理がたたり……幼いシリウスに『王都には近付くな』と言い残して亡くなったのだという。

「これは後で知った話だが、父上は母のことを本当に愛していたようで、俺たち親子をずっと探していたらしい。孤児院で父の部下に発見された俺は、そのまま王宮へと連れ戻された」

 壮絶な過去を語るシリウスは、一見いつもと変わらぬ無表情。しかし瞳の奥には深い悲しみが宿っていた。

「俺はそれから各地の孤児院をたらい回しにされ、最終的に、一番収容人数の多い王都の教会に流れ着いてしまった」

 その頃にはもう、人生どうにでもなれと思っていた、と淡々と語る。

「誰にも必要とされず、うとまれ嫌われ、愛想もないから友達も出来ない。どこへ行っても孤独で、自分の境遇も、自分自身も大嫌いだった」
< 191 / 226 >

この作品をシェア

pagetop