【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
 シリウスに目配せされたシスターは、小さく頷き、口を開いた。

「私達は、ある日突然何者かにさらわれ、気が付けば聖女離宮にいました。怯え、戸惑う私達に、聖女さまがこう、おっしゃったのです――」


 あんたたちは、あたしが『聖女』でいるためのエサなの。

 異能持ちは、力を。
 女と子どもは、若さと美しさを。
 神に仕えるシスターは、敬虔さと慈愛の心を差し出しなさい。

 あたしが全部、奪ってあげるから――と。
 

 
 あまりのおぞましさ、貪欲さに、その場にいる全員が戦慄(せんりつ)した。
 
 泰然(たいぜん)としていた陛下でさえ「なんということだ……」と狼狽える。


 
 ことの起こりは数日前、シスター・クラーラの失踪を知った私は、真っ先にミーティアを疑った。

 聖女離宮で転んだ少年の傷を癒したとき、癒しの力が明らかに弱まっていたのを思い出したからだ。

 異能は体力などと同じく、加齢や病によって衰えていく。
 
 時を止められないのと同じように、老いと異能の減退をとめる(すべ)はない。

 ミーティアが国一番の『癒し手』でいるためには、エスター(わたし)から力を奪ったように、他人から盗むしかない。
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