彼は溺愛モンスター

溺愛モンスター

「イヨちゃん!」

休み時間になると“彼”は、予想通り私の席に来た。
そして、約束のものを見せてくれる。

忘れてなかったんだ……!

私は嬉しくなって、常に持ち歩いている約束のものを出した。

「「せぇのっ」」

ぱちっ

私たちは、約束のさくらんぼを合わせた。
どんなに離れていても、私たちの息はぴったり。

私が楓くんの方を見てにっこりすると、楓くんは「はぁ〜っ」と大きく息をついた。

「よかったー! イヨちゃん、忘れてるかもですんごく怖かったんだからっ」

「えぇっ? 私が楓くんのこと忘れるわけないよー」

私たちのほっこりした雰囲気を見て、クラスメイトは困惑。もちろんサチカも。

「イヨちん、知り合い?」

サチカが早速聞いてきた。
作戦、意味がなくなっちゃったね。

「うん。前に言ってた幼なじみだよ」

周りに聞こえるように、少し大きな声で言った。
案の定、周りは「なんだー」と納得の声をあげる。

「ああ! イヨちんが言ってた“彼”のことだったんだね。はじめまして。イヨちんの親友の西尾サチカです」

サチカの自己紹介に対して、人見知りだった彼とは思えないほど余裕のある笑みを浮かべて、楓くんは笑った。

「イヨちゃんの幼なじみの佐藤楓です。よろしくね、西尾さん」

二人が仲良くなったのを見て、私は嬉しくなった。
大事な二人が仲良くなるのって、こんなに幸せなことなんだね。

*その日の帰り道。

「イヨちゃーん、帰ろー」

「いいよー」

きっと、慣れてないんだよね。慣れるまでは、私が一緒に登下校するよ。

外に出る。

ザー、ザー

え、雨!?
今日の天気予報が晴れだったから、折り畳み傘、持ってきてないよ……。

「イヨちゃん、僕、傘持ってる!」

楓くんが傘に入れてくれた。

「いいの?」

「うん。だって、“大事なイヨちゃん”が濡れるとこ、見たくないもん♡」

だ、大事なイヨちゃん……!!

彼の言葉に深い意味がないことはわかってるけど、は、恥ずかしい……。

それに、どさくさに紛れすぎてわからなかったけれど、これって、相合傘……!!

なんだか恥ずかしくなってしまって、頬が熱くなる。

ああっ、相手は楓くんなのにっ。何、意識してるの、しっかりしてよ、イヨ!

「イヨちゃん、もっとこっち来て。じゃないと濡れちゃうよ」

楓くんが私の肩を掴んで、自分の方に引き寄せる。
彼の肩と私と肩がぶつかった瞬間。

私の顔面は真っ赤になった!

「やっば」

「楓くん?」

「ううん、なんでもなーい」

楓くんと私の肩が、ときどきぶつかる。

ああ、静まれ心臓!!

*side・楓
雨が降っている。
これは、神様がくれたチャンス……!

「イヨちゃん、僕、傘持ってる!」

二本。
本当は僕、傘を二本持ってる。

でも、それじゃ『相合傘』のチャンスがなくなっちゃう!

今日の目標は、イヨちゃんに意識させること。

案の定、イヨちゃんの顔は真っ赤。

え、かわいすぎて……♡

「やっば」

「楓くん?」

イヨが上目遣いで僕を見つめる。
やばいやばい、イヨちゃんが可愛すぎて僕の心臓が……。

「なんでもなーい」

冷静を取り戻し、にこっとする。

ーーーイヨちゃんは知らないよね。僕がずーっと昔からイヨちゃんのことを好きだってこと。
今まで一緒にいらなかった分、隣で愛せなかった分、愛してあげるから。
覚悟してね、イヨちゃん♡
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