オタクが転生した結果
不幸にもその事故に巻き込まれて身動きが取れなくなり、薄れゆく意識の中で同じ事を考えている者達がいた。

『このまま私は死んでしまうのだろうか、、ん?待てよ?もしかしてこれって、異世界転生チャンスなんじゃね?』

普段からラノベを読み過ぎているが故の、死に際とは思えないこの思考回路。

だが、普通ではないこの考えが一度に複数集まった事により、奇跡が起こった。

犠牲者達の魂は、神によってその望みを叶えられ、ある物語の中に転生を果たす事となる。

その物語とは、彼女達が目にする事のできなかった待望の新作!、、ではない。

オタクの祭典と名高いコミケ、、の地方版である今回のイベント。数ある同種のイベントの中でもそこそこの規模を誇る物で、本家デビューを果たす前段階として初参戦していた女子高生がそこにいた。

高島美咲(たかしまみさき)16歳。一般参加の彼女は、高校の文学部に所属して小説を書いている。今回転生先に選ばれたのは、美咲が持っていた自作の小説だった。

読むのは好きだが、書くのは素人。

身分の低い美少女が王子に見初められ、その婚約者だった悪役令嬢に虐められる事で王子との絆を深め、ハッピーエンドを迎える。

ありがち過ぎるストーリー、ガバガバな設定、緩急のないぬるっとした展開。

無理のない実写化には、これ位が丁度良かったのかもしれない。素人丸出しのガバガバ設定は、神も補填がしやすかろう。

犠牲者の魂達は、期待していた作品ではない事にひとしきり文句を言った後、それぞれの転生先へと旅立った。

神を神とも思わぬ罵詈雑言を浴びせられた神は、彼女達の言動によってストーリーが自由に展開される事を可能にし、それぞれが望む先に転生させる事を約束させられ、ようやくお役御免と相成った。

転生先の一番人気は『男爵令嬢』『子爵令嬢』である。

ガバガバ設定過ぎてどの令嬢がヒロインなのかがわからず、出たとこ勝負の運任せ転生ではあるが、ヒロインではなくとも、貴族として波風の少ない優雅な生活を保証される安牌ポジだ。

悪役令嬢の手下ポジとなりえる『伯爵令嬢』『侯爵令嬢』は、自らストーリー展開をしたい者にとって、丁度いい役回りである。

悪役となる『公爵令嬢』だと、最終的に断罪され不幸になってしまうが、手下ポジならうまく立ち回れば回避可能だろう。

こうして、それぞれの思惑を胸に、新たな物語が幕を開けた。
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