オタクが転生した結果

ニャロメ様爆誕

アルメニアス大公国は、南は海に面し、それ以外を山脈に囲まれた天然の要塞国家である。山脈は資源が豊富で、他国との貿易も盛んに行っており、侵略に怯える事もない。至って平和な国だった。

世継ぎとなる王子は見目麗しく利発で、将来も安泰であろう。

その王子、テオドリック・アルメニアスは、婚約者を目の前にして戸惑っていた。

王子の婚約者はいずれ王妃となる為、厳しい教育が必須だ。テオドリックはまだ10歳になったばかりだが、早々に婚約者を決め、少しでも早く王妃教育を始めるに越した事はない。

そんなテオドリックの婚約者に選ばれたのは、ルヴェリエ公爵家の三女クリスティーヌだった。

婚約者を決めるに当たり、テオドリックは自らの意志が尊重されないであろう事を覚悟していた。しかしながら、王宮の庭園に用意されたテーブルの向かい側に座る少女は、何やら様子がおかしくて、不安を感じずにはいられない。

今年8歳になるというクリスティーヌは、子供ながらに美しい顔立ちをしている。燃えるようなジンジャーヘアーと透き通るような白い肌、ヘーゼルの瞳も魅力的だ。そんな非の打ち所のない容姿を持つ少女に、一体何が起こっているのだろうか?

ルヴェリエ公に手を引かれ連れて来られたクリスティーヌは、過剰にフリルとリボンが付いた毒々しい赤と黒のドレスを纏い、美しい髪はカッチリと縦にロールされ、舞台女優のようなどぎつい化粧が施されている。

完璧なカーテシーを披露したクリスティーヌが、ルヴェリエ公に促され、自己紹介をした。

「テオドリック殿下、お初にお目にかかります。わたくし、ルヴェリエ公爵家三女(ここでポーズを決める)クリスティーヌでございますわ~」

見た目の異様さはひとまず置いておこう。だが、その変なポーズと共に語尾を上げる話し方は、絶対におかしいと感じる。

(他に候補はいなかったのか?いや、いなかったから彼女がここにいるのか。ああ、だからこそ早めの王妃教育が必要なのかもしれない)

「あ、ああ、よろしく。王妃教育は厳しくて大変だとは思うが、是非頑張って欲しい。応援しているよ」

頭の中に次々と浮かぶ?マークを振り払い、テオドリックがクリスティーヌに話しかける。

「わたくし、お勉強は得意ですの。おちゃのこさいさいですわ~」

「オ、オチャ、、ノ?」

あまりにも意味不明で動揺を隠しきれず周りを見回すと、皆が同じ表情で目を泳がしていた。ルヴェリエ公は遠い目をしている。

「オーホッホッホッホー」

(私はこれからどうしたらいいんだ)

口に扇子を添え高笑いをするクリスティーヌを眺めながら、テオドリック少年は、国の将来を案じた。
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