新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜
「いったい、何が起きたっていうのよ？　高橋さんは、普通に歩いていただけなのに。何？　貴女、いきなりぶつかってきて」
すると、黒沢さんが物凄い剣幕で座り込んでいる女子社員と一緒に居た人のところに近づいてきた。
「何ですか？　そんな言い方しなくても、いいじゃないですか。バランスを失って転びそうになったところに高橋さんが歩いていらしたから、ちょうどぶつかっちゃったんですよ。あまり大袈裟にしてみんなに注目されたくないので、どうぞ黒沢さんはお食事を続けられて下さい」
「まるで、部外者、邪魔者は消えてと言わんばかりね」
「まあ、黒沢さん。そんなつもりは、ないですよー？　せっかくの宴会が、台無しになってしまうと思っただけですからー」
「おお、怖い。怖い」
折原さん？
「女の舌戦ってやつは、どうしてこう僻みっぽい言い方になるんだろうねー」
確かに、折原さんの言う通りだ。今にも、一触即発の険悪なムード。
「あの5年目の2人と4年目の出納の子達、かなり質悪いから。まだ、単細胞のお局達の方が扱いやすいわ」
折原さんは、棒々鶏を摘むとビールを一口飲んだ。
「そ、そうなんですか？」
「ややこしいことにならないといいけど」
そんな……。
折原さんの言葉に慌てて高橋さんの方を振り返ると、高橋さんは座り込んでいた美奈という人を起こしてあげようとしていた。
「痛くて、歩けなーい」
「大丈夫？」
「何処が、痛いんですか？」
高橋さん……。
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