新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜
ぶつかってしまって膝が痛いのだったら、病院に行った方がいいのに。それに、膝が痛いのにお酒なんて飲んで大丈夫なんだろうか? あまりよくないような気がするけれど。
あまり長い間、トイレに居ても折原さんが心配するといけないので宴会場に戻り、そっと入り口のドアを開けていると、いきなりドアが軽くなって誰かが後ろから一緒にドアを開けてくれていた。
「すみません。ありがとうございます」
「どう致しまして。あれ? もしかして、会計の人?」
エッ……。
「は、はい」
誰だっけ? 
顔は見たことある人なんだけれど、名前が思い出せない。
「俺、主計の鴨志田。中原と同期。よろしく」
そう! 鴨志田さんだ。
あっ。折原さんがさっき言ってた、主計の中原さんの同期ってこの人のことだったんだ。中原さんと鴨志田さんは、同期だったんだ。そうなんだ……。
「何か、考え事?」
エッ……。
「あ、あの、すみません。会計の矢島です。よろしくお願いします」
「よろしく」
鴨志田さんは、そう言って私の肩を叩いた。
「鴨志田。何、矢島さんに馴れ馴れしくしてんだよ。ごめんね、矢島さん。此奴、ちょっと酔ってるから」
「いえ、そんなことないです」
「俺は、酔ってねーぞ」
「いいから、早く席に戻ってろ。これから、ビンゴゲーム始まるらしいよ。矢島さんも、席に早く戻った方がいい」
「ビンゴゲームですか?」
やった! ビンゴゲーム、大好き。
「でも、中原さんはどちらに?」
「俺も、急いでトイレに行ってくる」
「あっ……はい」
宴会場に入って会計の席に向かっていると、何故か後ろから鴨志田さんも付いてきた。
酔っているからだろうか? 席が分からなくなっちゃったのかな。
「あの……主計のお席は、あちらですよ?」
「うん。知ってる。俺、矢島さんと一緒にビンゴゲーム楽しもうと思って」
はい?
< 18 / 181 >

この作品をシェア

pagetop