新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜
高橋さん。
そんな……急に改まって言われたら、戸惑ってしまう。
「い、いえ、そんな。こちらこそ、よろしくお願いします」
慌てて、お辞儀をした。
エッ……。
頭を上げた瞬間、高橋さんに抱きしめられていた。
さっきまで後ろの大きな私の背よりも高い大型の冷蔵庫のモーターの音がやけに大きく聞こえていたはずなのに、そのモーターの音よりも今は自分の心臓の速い鼓動の方が大きく聞こえるような気がする。
「あまり、余計な詮索はするな」
日だまりのような温かいトーンの優しい声が、静かに耳元で聞こえた。
「お前。飛行機の中で、泣いていただろう?」
知っていたの?
高橋さんは、私が泣いていたことを知っていたんだ。
「CAに言ったようなことを、俺はお前に言ったりしないから安心しろ」
「高橋……さん?」
何故?
何で、そういうことを言うの?
どうして、私にそんな優しい言葉を掛けるの?
高橋さんの気持ちがよく分からなくなって、せっかくもう割り切ろうと努力しているのに。それなのに、そんなことを言われたら、またきっと……。
高橋さんの、私を抱きしめる腕の力が増した。
エッ……。
高橋さん?
まさか、震えてる?
高橋さんの私を抱きしめている腕が、心なしか震えているような気がする。気のせい?
高橋さん。どうしたの?
「俺は……」
やっぱり、気のせいじゃない。
何で?
高橋さんが……震えている。
< 48 / 181 >

この作品をシェア

pagetop