天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う

羽海は今日も十二階から十四階フロアの清掃を担当している。

一度彗とすれ違ったが、羽海が咄嗟に顔を逸らしたせいか、話しかけてくることはなかった。

ホッとしたのと同じくらい寂しさを感じ、なんて身勝手なんだろうと自己嫌悪に陥る。

仕事中は無心で働き、午前中の作業を終えたところで休憩に入った。

職員用の食堂は混むと様々な匂いが混在し気分が悪くなってしまうため、家で作ってきたお弁当を手に中庭へ出ると、多恵がエプロン姿で花壇に水を遣る姿があった。

「あら、羽海さん。こんにちは。お昼休憩?」
「多恵さん……」

この姿を見ていたため、彼女がこの病院を擁する大きな財団の女帝と呼ばれる人物だなんて思いもしなかったのだ。

いつも穏やかな笑顔で患者や出入り業者のスタッフと話していて、羽海にも優しく声を掛けてくれた。

今日は多少の気まずさから、小さく会釈をするにとどめた。

素敵な女性だと慕っていたが、本当に財団の理事就任を引き換えに、彗を羽海と結婚させようとしたのだろうか。

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