天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う
いわゆる政略結婚になりそうなお金持ちのお嬢様ではない羽海を、なぜ自分の孫の妻として選んだのか、理由が全くわからない。
なにか病院の利益になるわけでもなく、ただ旧友の孫だというだけで大事な後継ぎの伴侶を選ぶとは思えなかった。
(結婚して跡継ぎさえ生んでくれれば、相手は誰でもよかったとか……?)
初対面で彗が提示した条件を考えれば、それもあり得る気がする。
羽海がじっと考え込んでいると、多恵が以前と変わらぬ穏やかな笑顔で切り出した。
「体調は大丈夫なの? 私が息子を授かった時は、つわりが酷くて動けなかったのよ」
驚愕に言葉もなく隣の多恵を見つめた。
(妊娠してるのを、もう知られてる……)
逃げられない。瞬時にそう悟ると、羽海の顔はみるみるうちに蒼白になっていく。
どうしてと考えるまでもない。思い当たるのは隼人しかいなかった。
彼が多恵にどう告げたのか、一昨日の言動からすれば容易に想像できる。自分の子の可能性があると、でたらめばかりを語ったに違いない。