おめでとう、あなたが俺の運命です。〜薄紅色の桜紋様は愛の印〜
1
○朝の通学路
学生達で賑わう通学路。
真っ赤な薔薇の花束を手に持つスーツ姿の社会人・鷹緒。
甘い笑顔を女子高生・美華に向け、花束を渡そうとする。

鷹緒「僕の運命。ようやく見つけたよ」
美華「え?」
鷹緒「愛しい人。もう離さない」 
美華「ええ?えええ?」

そっと美華の手を取り、恭しくもその指先にキスをする。    
美華(何?何?……何がどうしてこんなことになったのー?)

(時間を巻き戻す)
○回想シーン
自宅リビング(朝の登校前。バタバタとしている)
リビングテーブルとその床には乱雑に置かれた書籍と紙が散らばっている。
それを避けながら2階から降りてきた美華がキッチンへとやってくる。

美華「ママ、仕事する時は書斎でやってよー。翻訳原書床に置かれちゃ躓いちゃうよ!」
母「ごめーん!でも煮詰まった時はリビングで仕事するとはかどるもんだから」

テレビ画面『今日の占い!いよいよ新学期!牡羊座の貴女は重大なことが起きちゃう日。運命的な出会いが待ってるかも?』
テレビから流れる朝の占いを聞きながら、美華は大急ぎで朝食をかき込む。

美華「それじゃいってきまーす」

バタバタとテレビを横切り学校へと急ぐ。
登校中。

美華「うーん!春だねえ」

大通りの道沿いに咲き誇る桜の花に目を細める。

美華「こっちのほうが近道なのよね」

本来の通学路とは異なるオフィス街を駆け足で通り抜けようとしていると、高層ビルから出てきたからスーツ姿の男性とぶつかってしまう。その拍子に男性の持っていた資料も道路に散乱してしまう。

美華「す、すみません!」

慌てて謝罪しながら資料を掻き集める美華の頭上に影ができる。スーツ姿の男性も腰を屈めて資料を拾い出したからだった。

鷹緒「いや、こちらも前方不注意だった。申し訳ない」

資料を集めて手渡すと、ほんの少し手が触れてパチッとした静電気の様な刺激が走る。

その痛みにパッと手を離す美華。
一方で鷹緒は雷に打たれたような、衝撃を受けたような表情をする。

美華「あ、ごめんなさい……」
鷹緒「……こちらこそ、申し訳なかったね」

何か言いたそうな鷹緒だが、後ろからクラスメイトの高梨優弥が声をかけられそちらに気を取られる美華。

優弥「おっす!向原、何ぼんやりしてんだよ」

追い抜き際に頭をぽすんと叩いていく。

美華「ちょっとー。せっかくセットした髪がぐしゃぐしゃになるでしょー!」
優弥「はあ?そんなの気にしてたら遅刻するぞ?ほらっ走るぞ!」

優弥に急かされ、一緒になって走り出す美華。
振り返って鷹緒にお辞儀をする。

美華「すみません!それじゃ失礼します」
 
ナレーション:
向原美華――翻訳家の母と暮らす、どこにでもいる高校3年生。
この日、この瞬間に、運命の歯車が回り始めたなんて、この時私は全く気がつくことができなかった。

 
○次の日の朝
登校シーン。校門の前。
昨日からなぜか手首(手の平側)に小さな赤い痣のようなものができていることを気にする美華。

美華(これ……。気がついたら赤くなってたけど、どこかにぶつけたりしたのかな?虫刺されでも無さそうだし……)

美華が考え事をしながら歩いていると、後ろから声をかけられる。

鷹緒「昨日はありがとう」

振り向いてみると、目の前に広がる赤い薔薇。

美華「うわ!」

驚いて身を引く。

鷹緒「そんな態度も初々しくて可愛いね」

甘さを含んだ先程の声に、慌てて花束の向こう側を見つめると高級そうなスーツに身を包んだ男性が美華に向かって微笑んでいる。

鷹緒「向原美華さん、だよね?」
美華「えっと、はい。そうですけど……どなたですか?」

鷹緒は少し驚いたように目を見開くが、直ぐに表情を元に戻す。

鷹緒「ああ、僕は……昨日君に資料を拾ってもらった者だよ」
美華「あ!昨日は……こちらこそすみませんでした」
鷹緒「これ、少しだけどお礼。もらってくれないかな?」

大振の花束を差し出されるが、今は登校中。こんなものを学校になんて持っていけない。ましてや知らない人からの贈り物だなんて、受け取れる訳もない。

美華「えっと、いえ、元々こちらがぶつかってきたのが悪いんですし……」
鷹緒「でも気持ちだから」
美華「じゃあ、お気持ちだけ頂戴しますんで……こちらはお持ち帰り頂けますか?」
鷹緒「ここで贈り物を断るなんて……けど、だったら……」

ブツブツつぶやく男に美華は胡散臭い視線を向ける。

美華「じゃ、学校に遅刻しそうなんで」

そそくさと立ち去さろうとする。

鷹緒「ちょっと待って!」

美華の手首を掴む。
またしてもパチッとした刺激。

美華「っ痛!」
鷹緒「ああっごめん……でもこれで間違いない」
美華「え?」
鷹緒「君こそ僕の運命だ。もう離さない。結婚しよう」

鷹緒にぎゅうと抱きしめられる。
耳まで真っ赤になる美華。

(学校中に響く声で)

美華「お、お断りいたします!!!」

美華(な、な、なに?今の?)

動揺しながら慌てて走って鷹緒から逃げるように走り去り、教室へと入る。

里奈「ちょっとーなあに?さっきの熱烈な告白劇は」

友人の里奈が興味津々といった顔で声をかけてくる。

美華「そんなのこっちがききたいわよー」
里奈「かなりのイケメンだったよね?なーんかお金持ちそうだったし」
美華「そう?よく見てなかったからわかんないや」

焦った様子の優弥が二人の話に入ってくる。

優弥「おい向原、さっきのアレ、なんなんだよ」
美華「えーあんたまで、それ言う?(うんざりして顔で)」
優弥「いや、まあ……とにかく変な男には気をつけろよってことだよ」(ホッとしたような顔で)

クシャッと髪を乱すように頭を撫でていく。

里奈「美華ったら、朝っぱらから愛されてるわね」

呆れたように二人を見る。

優弥「筑紫、ふざけたこと言うなよ。クラスメイトとして心配して当前だろ?相手が何者かわかんねえんだから、危機感を持てって話なんだからなっ」

(優弥、顔を赤らめる)

里奈「ハイハイ。警察官僚の父を持つ正義感溢れる坊っちゃんはクソ真面目ねぇ」
優弥「なんだと?」
里奈「なによ?」

一触即発喧嘩になりそうなところに始業のベルが鳴り響く。

美華「あーほら二人共そこまで!もう授業始まっちゃうよ!」
優弥「やべ!一時間目、物理の小テストだったよな?」

バタバタとそれぞれに席につく。

(一体あの男は何者だったのか、疑問は残るがまずは目の前のテストをどうにかしなければいけない。
授業を受けるにつれて、朝の出来事は美華の中で次第に関心が無くなっていく。)


○下校時刻。自宅前。
物理の小テストは赤点。
再試験の必要ありとの先生からの小言を思い出して、美華はため息をつきながら帰り道を歩いていると、自宅の玄関先に大きなリムジンが停まっているのが目に留まる。

美華(こんな高級車、なんで家の前に停まってるんだろう?)

美華「ただいまー」

疑問に思いながらリビングに入るとそこに居たのは、朝の男。

美華「おっ、お母さん!この人、なんで……???」

どうして自宅に居座っているのか混乱していると母親から信じられない言葉を聞かされる。

母親「美華!あなた、漆山様とお付き合いしてたなんて……すごいじゃない!」
美華「へ?漆山って?」
母親「漆山鷹緒様!あの今をときめく有名企業、漆山コーポレーションの若き社長!そんな有名人と将来を誓い合っていたなんて……ママも鼻が高いわ!」
美華「え?あの?」
母親「パパが亡くなって以来、親一人子一人で慎ましくくらしていたと思ってたけど……美華も全く隅に置けないわねえ!」

美華(付き合うもなにも、昨日ちょっとぶつかっただけなんだけど???)

美華が否定しようと口を開く前に、鷹緒は素早く美華を引き寄せ、その唇にキスをして口をふさぐ。

美華「〜〜!?」
鷹緒「では、先程のお話の通り、美華さんには今日から漆山家で花嫁修業も兼ねて暮らして頂くということで」
母親「もちろんいいですとも!こちらこそ粗相がないか心配ですが宜しくお願い致します!」

驚いて声も出せない美華を横目にどんどん話は進んでいって、あっという間に車に乗せられてしまう。

美華(これから私、どうなっちゃうのーー???)


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