私のボディーガード君
「さっきより顔色がよくなったわね。佐伯さん、少しは楽になった?」

伊藤先生がベッドで横になっている私の傍に立つ。

友美のカフェで気分が悪くなった私を若林さんが近くの伊藤先生のクリニックに連れて来てくれて、今、処置が終わった所だった。

「はい。おかげ様で」
「点滴が全部落ちたら帰っていいから」

そう言って伊藤先生が椅子に座った。

「今回出た症状は精神的な物が原因だと思うけど。いいカウンセラーの先生を知っているわよ。紹介しようか?」

「いえ。大丈夫です」

カウンセリングは子供の時さんざん受けたから、正直もう受けたくない。
それに原因はわかっている。あの誘拐事件だ。

「ご心配をおかけしてすみません。どうしてこんな症状が出るのかわかっているから大丈夫です」

「大丈夫って感じには見えなかったけど」
「考えたくない事があるんです。カウンセリングを受けるとその事を考える事になるから嫌なんです」
「わかった。無理強いはしないわ。お迎えが来ているわよ」

伊藤先生が病室の外に向かって声をかけると、ネイビーのスーツ姿の三田村君が入って来た。

三田村君の顔を見て、ふっと気持ちが緩む。

ベッドから起き上がった瞬間、三田村君に抱きしめられた。
ムスクの香りがする。安心するいい匂い。

「妃奈子さん、傍にいられなくてすみません。本当にすみません」

三田村君は私を抱きしめながら何度も謝った。

「大丈夫だよ。三田村君。三田村君のせいじゃないから」

三田村君の胸に耳をつけると鼓動の音が聞こえて、不安な気持ちが消えていく。三田村君はいつも私に安心感をくれる。

三田村君が迎えに来てくれて良かった。
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