私のボディーガード君
胸に手を当てて、深呼吸してから後部座席のドアを開けた。

傍で立っていた三田村君と目が合った瞬間、心臓が飛び出そうになった。

ただ車から降りるだけなのに、三田村君に見られていると思ったら恥ずかしくて、目も合わせられない。今までどう三田村君と接して来たのか急にわからなくなった。

車の中に逃げ帰りたい。
だけど、降りると、黒いSUVは私から逃げ場を奪うように駐車場から走り去った。

えっ……。

若林さん、聞いてないんだけど?
帰りは三田村君と2人きり?

「もしかして、鞄などを車内にお忘れですか?」

黒いSUVを目で追っていたら、凛とした低い声が頭の上からした。

「いえ、大丈夫です。ただ、帰りはどうするのかと」
「私が妃奈子さんを送りますから」

やっぱりそういう事だよね。
ここからは三田村君と2人だけ。好きって自覚してから三田村君と会うのは初めて。心臓がドキドキして仕方ない。

どんな顔をすればいいんだろう。

「妃奈子さんをご案内したい場所があるのですが、つき合って頂けますか?」

三田村君が大きな手を差し出した。
今までだったら何の躊躇いもなく握っていた手。でも、今日は手をつないだらドキドキしている事が伝わりそうで恥ずかしい。

「すみません。いらなかったですよね」

あっ。

三田村君が気まずそうに差し出した手を下ろした。

いらなくない。手、つなぎたかった。
ぐずぐずしていたからだ。せっかく三田村君と手をつなげるチャンスだったのに、何やっているんだろう。

「こちらです」
三田村君が歩き出す。その半歩後ろを歩きながら、視線は三田村君の右手に行く。あの手を握りたい。もう一度差し出してくれないかな。そんな事を考えていたら、何もない所で躓いて、前のめりになる。

「危ない」
振り向いた三田村君がキャッチしてくれた。
自然と私の顔はスーツ越しの逞しい胸板にあたる。三田村君がつけている整髪料のムスクの香りがする。この匂い、好きだな。

目の前のサックスブルーのネクタイの結び目を見ていたら、「大丈夫ですか?」って優しい声が頭のすぐ上でする。首を上げると、心配そうに私を覗き込む端正な顔があって、心臓がキュッと強く伸縮した。
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