私のボディーガード君
体中の熱が一瞬で顔に集まって赤面する。何か言わなきゃいけないのに、緊張で喉が締め付けられて声が出ない。

私、三田村君に動揺しすぎ。

「妃奈子さん?」
三田村君に見つめられて、コンクリートのように固まって動けない。早く、動かなきゃ。三田村君から離れなきゃ。ふんっと手足に力を入れて、壊れた人形のようにキコキコと不自然な動きで一歩、二歩と三田村君から離れて、あははと愛想笑い。

そんな私に三田村君がフッと優しい顔で笑った。三田村君が笑った瞬間、やわらかな春風が吹いた気がした。

ドキッ。また三田村君に心臓が反応。

ドキドキ、ドキドキ……。

意識すればする程、大きくなる鼓動の音。
光源氏以外の男性にこんなにドキドキしたのは初めて。

これが恋のときめきなんだ。
男性アレルギーの私でも生身の男性に恋が出来たんだ。

そう思ったら、じんわりと熱い物が喉の奥から目の奥まで込み上げて来て、泣きそうになった。込み上がった感情をぐっと我慢して三田村君に向き合う。

言わなきゃいけない事がある。

「三田村君、この間はごめんね」

えっと、意表を突かれたというように三田村君が眉を上げる。そんなちょっとした表情の変化が愛しい。恋をすると好きな人の全てが愛しくなるんだな。

三田村君が「いや、俺こそすみませんでした」と口にする。

主語が『俺』に変わった事が嬉しい。素の三田村君と向き合えた気がする。
まだまだ三田村君は言いたげだったけど、これ以上は照れくさくて、「行こう」って私から三田村君の手を取って歩き出した。

やっぱり三田村君の手は大きくて温かい。

三田村君、好きだよ。大好きだよ。
胸の内側でそう思いながら、三田村君と歩いた。

三田村君が私を連れて来てくれた場所は病院の中庭の、桜の木の前だった。

「覚えていますか?」

三田村君が黒い瞳を私に向けて、静かに聞いた。
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