私のボディーガード君
大きな桜の木が三本並んでいて、桜の木の正面に緑色のベンチが二つ並んでいた。耳を澄ませると鳥の声も聞こえてくる静かな場所だった。

「覚えているって?」

隣に立つ、三田村君が黒い瞳を細め、枝に蕾を沢山持つ桜を見つめる。その横顔が切なそうで、また心臓がドキンッと大きく波打った。

「俺が妃奈子さんを初めて見たのはこの場所でした」
「えっ……」
「桜の木の下で風になびく花びらを掴もうとしている妃奈子さんを見て、あまりにも綺麗だったので、桜の精だと思いました。俺は5歳で、妃奈子さんは12歳。桜の花びらを集めて一緒に遊んだんです」

あっ……。

言われてみればこの場所を知っている。

ここは12歳の時に肺炎で入院していた病院。
小児科の呼吸器系の名医がいるからと、入院させられたんだ。

青いパジャマ姿の小さな男の子を思い出した。その子は喘息で入院していて、点滴が嫌で、看護師さんから逃げて来たと言っていた。

名前は確か……

「もしかして、みっくん?」

こっちを見る三田村君の目が優しく微笑んだ。

「はい。5歳の俺は自分の事をそう呼んでいました」

えー! 本当にあのみっくん!!

うそー!!

「妃奈子さん、驚きました?」

私を見て三田村君がクスッと笑う。

「いや、驚いた所の話じゃないよ! えー! 本当に? 本当なの? どっきりじゃない?」

さらに三田村君がクスクスと楽しそうに笑った。

だって、あの小さかったみっくんが三田村君だなんて……。

驚き過ぎて、言葉が出て来ない。想定外過ぎる。

全然気づかなかった。

でも、三田村君は私に気づいていたの?

「俺は、ずっと『さえきひなこ』を探していたんです」

戸惑った私の目を見ながら三田村君が噛みしめるように言った。

ずっと探していた? 一体どういう事?
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