私のボディーガード君
「妃奈子……さん」

 誕生日の夜に別れた彼、浅羽(あさば)光平(こうへい)が眼鏡の奥の瞳をこれ以上ない程、大きくしてこっちを見た。
 浅羽の向かい側にはピンク色のワンピース姿の可愛らしい女の子が座っている。

 何、これ? 私と来る予定だったディナーに女の子を連れて来たって事?
 どくどくと嫌な感情がお腹の奥から流れてくる。くぅー冗談じゃない!

「もしかして『光源氏に聞く恋愛相談』を書いた佐伯先生ですか!」

 浅羽にキレそうになっていると、女の子が大きな目を輝かせてこっちを見てくる。
 うわっ、キラキラしているし、若い。

 うちの大学の学生たちと同じぐらいに見える。
 この子、32歳の浅羽より一回りは年下なんじゃないの?

「こうくん、本当に佐伯先生と知り合いなんだ。すごぉーい!」

 こうくん……。
 馴れ馴れしい呼び方。私だって下の名前で呼んだ事ないのに。

「佐伯先生、今日はありがとうございます」

 は? なんでいきなりお礼?

「佐伯先生にクリスマスディナーの席を用意してもらったと、こうくんから聞いています。このお店、人気で簡単に予約ができないって聞いていたから、本当に嬉しいです。ありがとうございます」

 ちょっと待って。
 私がクリスマスディナーの席を用意した……ですって?

 何それ?

 浅羽を睨むと、「妃奈子さん、ちょっと話そうか」と言って、立ち上がった。

「ゆみちゃんは、ここで待っててね」

 猫なで声でゆみちゃんにそう言ってから浅羽が私に近づく。
 いきなり距離を縮めて来たので、避けるように私が先に個室を出た。
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