私のボディーガード君
「触らないで」
 個室を出て、トイレ付近の人気のない場所で浅羽に言った。

「先週、わかったでしょ。男の人に触られるのが苦手なの」
 弱点を晒すような事は言いたくなかったけど、浅羽には醜態を見られているのでもう隠す必要がない。

「そうだった。このスーツも汚されたら困る。新調したばかりだからね」
 今夜の浅羽はペンシルストライプ柄のチャコールグレーのスーツを着ていた。似合っているのが、何だか憎らしい。

 浅羽の見た目はわりとカッコイイ。甘めの整った顔立ちで女性にモテそうだけど、あんな若い子をクリスマスディナーの席に連れてくるなんて酷い。私と別れているとは言え、まだ一週間よ。いくらなんでも変わり身が早過ぎない?

 浅羽がニ歩、私から離れて、私たちの間には一メートルぐらいの距離ができた。二メートル欲しい所だけど、触らないとわかっていれば大丈夫な距離だ。

「それで浅羽さん、これはどういう事?」
 ヒールを履いた私より頭一つ分、背の高い浅羽を見上げた。
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