私のボディーガード君
「勝手な事を言わないで。このディナーを予約したのは私よ。一言、私に断ってくれてもいいでしょ?」

「君に断る必要はないだろ。僕の為に君が用意した席だろ?」

 自分は全く悪くないという顔をしている浅羽がムカつく。
 浅羽がこんなに人をイラッとさせる男だとは思わなかった。

「それは別れる前の話でしょ。別れたんだから招待も取り消しよ! だいたい、あの後、私がどんなに惨めだったか知ってる? バーで一人、置いてきぼりにされて、店員さんに謝って、あなたが飲んだウィスキーのお金まで払ったのよ」

「それは妃奈子さんが僕のスーツを汚したんだから仕方ないじゃないか。クリーニング代を払うと言ってくれたけど、それじゃ済まないぐらい派手にやられたからね」

 スーツの事を言われると強く出られない。

「スーツは弁償します」
「いいよ。妃奈子さんにそこまでしてもらうつもりはないから」

 拒絶するような冷たい目を向けられて悲しくなる。
 浅羽はもう私と関わりたくないんだ。

「わかりました。では、汚してしまったスーツのお詫びに彼女とディナーを楽しんで行って。私は帰るから。それから、まだ私の連絡先が残っていたら消して下さい。私も消しますから。さよなら」

 悔しいけど、ディナーは譲ってやった。こんな男、もう二度と関わるものか。
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