私のボディーガード君
 振り向くとサングラスをかけた髭面の中年男が立っていた。
 誰? 全く知らない男。しかも怖そう。

「お嬢さん、ちょっとお付き合い頂きたいんですよ」
 男が近づいてくる。

「来ないで下さい。私のパーソナルスペースは2メートルなんです」
 男がはあっと鼻で笑って、近づいてくる。

「いや、来ないで」
 男に背を向けて走り出そうとした時、強く腕を掴まれた。

 うっ、気持ち悪い! ぞわぞわと鳥肌が立つ。

「放して」
「お嬢さん、静かに」と言って、男が黒革の手袋をはめた手で私の口を塞ぐ。ごつごつした指が触れて不快でしかない。それに怖い。手も足も恐怖に震え始める。

 誰か助けてー!

 そう心の中で叫んだ時、男と私の間に誰かが飛び込んで来た。
 そして、あっという間に男を蹴り倒した。

「おじさん、彼女に触ると吐かれるよ」
 私の前に背を向けて立った黒いチェスターコートの男が言った。
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