私のボディーガード君
 親し気な表情を浮かべてこちらに来たのは母の秘書をしている秋山さん。

 秋山さんは30年前に母が初めて衆議院議員選挙に出てからずっと母の秘書を務めている。2歳で父を亡くした私にとって、父親みたいな人で、母の代わりに授業参観や運動会などの学校行事によく来てくれた。

「秋山さん、お久しぶりです」
「妃奈子ちゃん、しばらく見ない間に綺麗になったな」

 秋山さんが、くしゃっとした親しみのある笑顔を浮かべた。目尻に浮かぶシワを見て、私と同じ誕生日の秋山さんが先週、58歳になった事を思い出した。

「秋山さん、お誕生日おめでとうございます。今日は突然だったので、何も用意していなくて」

「覚えていてくれてありがとう。妃奈子ちゃんこそお誕生日おめでとう。プレゼントは届いたかな?」

 誕生日に秋山さんの名前でお花と百万円以上はするカルティエの腕時計が送られて来た。腕時計を送らせたのは母だと思ったから受け取らなかった。

「腕時計は高価すぎるので返送させて頂きました。お花は楽しませてもらいました。ありがとうございます」
「腕時計も受け取ってくれると嬉しかったな。下心はありませんよ」
「政策秘書の秋山さんが下心がない訳ないでしょ」
「これは一本取られたな。では、僕にも誕生日プレゼントを頂こうか」
「それはまた今度」
「今すぐ欲しいな」
 秋山さんがニコッと笑う。
「今すぐですか?」
「お母様に会って欲しいんだ。それが僕へのプレゼント。頼むよ。大臣、最近元気がないんだ。妃奈子ちゃんの顔を見たがっているんだ」

 秋山さんに拝まれる。

 さすが秋山さん、交渉上手。
 誕生日プレゼントだなんて言われたら断れない。

「わかりました。少しだけなら」
「妃奈子ちゃん、ありがとう。すぐにお母様をお連れするから彼といて下さい」
 秋山さんが離れた所に立つ、三田村さんに視線を向けると、彼から秋山さんに近づく。

「お嬢様をご案内して下さい」
 秋山さんが三田村さんにカードキーらしきものを渡した。

 私が逃げないように監視付きで閉じ込める気なんだ。
 やっぱり秋山さんは抜け目がない。
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