私のボディーガード君
この感じ、子どもの頃にも感じた事がある。

――佐伯妃奈子ちゃん?

耳の中でおじさんの低い声がザラリと響いて鳥肌が立つ。それだけではなく、つんとした消毒薬の嫌な匂いも思い出した。

恐怖と不快さで胃液がこみ上げてくる。
トイレに駆け込んで込み上げてきたものを戻した。

戻したあとも説明のつかない恐怖に涙が溢れる。
ガタガタと手も足も、顎も震えていた。何とかトイレから這いつくばって、三田村君の部屋のドアと繋がる場所まで出るけど、鼓動を速めた心臓が苦しくて動けなくなる。

三田村君、助けて……。

そう呼びたいけど、声にならない。

このまま死んでしまうかも。

そう思った時、「妃奈子さん」って声がかかる。

顔を上げると、床に蹲っている私の前に三田村君が立っていた。

「妃奈子さん、どうしたんですか?」

三田村君が膝を折ってしゃがみ込み、私と視線を合わせる。
助けて欲しくて手を伸ばすと骨張った大きな手が握ってくれた。

手の温もりに不安が和らいでいく。

「妃奈子さん、大丈夫ですよ。大丈夫ですから」
落ち着いた低い声が安心感をくれる。

「大丈夫ですよ」
そう言いながら、三田村君は手を繋いでいない方の手で何度も背中を撫でてくれた。
< 73 / 210 >

この作品をシェア

pagetop