私のボディーガード君
何とか落ち着いて、三田村君に肩を支えてもらって、椅子に座った。

「妃奈子さん、何があったんですか?」

椅子に座った私の前に三田村君がしゃがんで、私の視線より低い位置から優しく聞いてくれた。

「……手紙」

喉の奥から何とか言葉を絞り出した。
白い便箋は床に落ちていた。それを三田村君が拾い上げる。

「これは! 妃奈子さん、この手紙、いつ来たんですか?」
「さっき、ホテルの人が持って来た」

三田村君が手紙を持って部屋を出て行こうとする。

「待って。どこにも行かないで」

子どもみたいだけど、今は一人になりたくない。

「お願い。離れないで。怖くて堪らないの」

まだ指先が震えていた。

「その手紙を見て、子どもの頃の事を思い出したの。私、12歳の時、入院先の病院から誘拐されたの。その手紙、その時と同じ嫌な感じがして」

「『22年前の恨みを忘れない』」
三田村君が手紙の文面を読んだ。

「22年前って、妃奈子さん12歳ですよね。この手紙を送って来たやつは妃奈子さんを誘拐した犯人と関係があるのでは?」

「……わからない」

誘拐事件の事は考えたくない。

「誘拐犯はどうなったんですか?」

誘拐犯……。
考えようとしたら、背筋がゾクッとする。

「その話はやめて!」
思わず言葉が強くなる。

「妃奈子さん……」
黒い瞳が驚いたように丸くなる。

「ごめんなさい。精神的なショックが強くて、病院から連れ去られた後の事は覚えていないの。気づいたら病院のベッドで寝ていて、急に男の人が苦手になって……」

男性アレルギーが発症し始めたのは誘拐事件後からだった。

「すみません。話したくない事を聞いてしまって。妃奈子さん、ホテルを出ましょう」
「出てどこに行くの?」
「怖い柔道家がいる家です」

目が合うと三田村君がニコッと笑った。
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