私のボディーガード君
通された洋間にはアップライト型のピアノがあった。ピアノの上にはトロフィーが飾られていて、なんと三田村勇人と名前が書いてあった。

「三田村君、ピアノ弾けるの?」

隣に立つ三田村君に聞くと、照れくさそうな笑みを浮かべた。

「ピアノをやっていたのは中学までで、もう大しては弾けません」

「勇人、お客さんに弾いてあげれば?」
キッチンでお茶を用意しながら叔母さんが勧めてくれる。

聴きたいかも。三田村君、どんな演奏するんだろう。

「おばちゃん、俺に恥をかかせないでよ。妃奈子さんに聴いてもらう腕じゃないんだから」

三田村君が照れくさそうな表情を浮かべた。

「聴きたいな」
「ダメです」
甘えるように見るときっぱりと断られた。

それからすぐに夕飯の時間になって、広いダイニングテーブルの上にはお刺身や野菜の煮物などの料理が沢山並んでいた。

特に美味しかったのがさんが焼き。初めて食べたけど、鯵をミンチにしてハンバーグみたいにして焼いたものだ。生姜と紫蘇のさっぱりとした味がして、何個も食べたくなる味だった。

「おばちゃんの飾り寿司、やっぱり美味いな」
隣に座る三田村君が美味しそうに卵焼きで巻いた太巻き寿司を食べていた。太巻き寿司の中はお花の絵になっていて、食べるのがもったいないぐらい。味付けは甘めで、これも美味しかった。

「勇人は昔から飾り寿司が好きよね」
叔母さんがふふって笑って、パンダの顔の飾り寿司もテーブルの上に置いてくれた。

「可愛い! これどうなっているんですか?」
私の質問に叔母さんが、中の部品の説明をしてくれる。
パズルのように部品を組み合わせて巻くという話を聞きながら、気持ちが穏やかになっていく。

怖くて堪らなかったけど、三田村君の叔父さんと叔母さんは素朴であったかくて、心が休まる。連れて来てもらって良かった。
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